東京大学大学院 工学系研究科 機械工学専攻泉・波田野研究室
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研究紹介

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過去の研究テーマ

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SiCデバイスの応力解析と順方向劣化現象への応力の影響

ワイドギャップ半導体である炭化ケイ素(SiC)は、Si半導体以上の電気特性を有することから次世代パワーデバイスの材料として注目されています。半導体デバイスには,その製造過程で複雑な応力分布が生じ,剥離やボイド,電気特性の変動などの信頼性低下を引き起こす原因となります。加えて,SiCバイポーラデバイスでは,順方向劣化現象と呼ばれる通電により積層欠陥が拡大する特異な現象が生じ,デバイスへの大きな課題となっています。本研究では,特に開発が盛んな4H-SiCパワーデバイスの信頼性向上を目的に,応力分布解析手法の構築や,順方向劣化現象に応力が与える影響のモデル化を行っています。

半導体に生じる応力は,実験的にはラマン分光法によりラマンシフトと呼ばれる光の振動数の変化を測定することで評価ができます。しかしながら,ラマンシフトは振動数の変化というスカラー量なので,ラマン分光法のみで6成分ある応力を決定することはできません。そこで,デバイス製造プロセスを再現する有限要素法(FEM)を行ってデバイスの応力分布をまず求め,実験との比較によりFEM解析の妥当性を確認する(Fig. 1)という手法を4H-SiCに適用し,デバイスの応力分布を成分毎に分解して明らかにする手法を開発しました[1]。 また,研究過程でラマンシフトと応力の変換係数(フォノン変形ポテンシャル)を第一原理計算により明らかにしています。

また,SiCバイポーラデバイスの順方向劣化現象に対して,信頼性確保に必要となる定量的な理論モデルの構築のため,第一原理計算による積層欠陥エネルギーの温度依存性の解析(Fig. 2)[2]や,順方向劣化現象に応力が与える影響のモデル化を行っています。通電実験,デバイスシミュレーション(TCAD),FEM解析(Fig. 3)を組み合わせる事により,順方向劣化現象の判定基準となる閾値キャリア密度にデバイスに加わる応力が与える影響をモデル化に成功しました[3]。


Fig.1 (a) ラマン分光測定および (b) 応力解析結果からの変換で得られたラマンシフト変化量分布の比較(E2モード)

Fig.2 第一原理計算に使用した4H-SiCの(a)完全結晶と,(b)シングルショックレー型積層欠陥(SSSF)(3, 1),(c)SSSF(1, 3),(d)ダブルショックレー型積層欠陥(DSSF)を有する結晶の単位胞構造。破線は積層欠陥の位置を示す

Fig.3 サブモデリング有限要素法の模式図

参考文献

  • H. Sakakima, S. Takamoto, Y. Murakami, A. Hatano, A. Goryu, K. Hirohata, and S. Izumi, “Development of a method to evaluate the stress distribution in 4H-SiC power devices”, Japanese Journal of Applied Physics 57, 106602 (2018).
  • H. Sakakima, S. Takamoto, A. Hatano, and S. Izumi, “Temperature-dependent stacking fault energies of 4H-SiC: A first-principles study”, Journal of Applied Physics 127, 125703 (2020).
  • H. Sakakima, A. Goryu, A. Kano, A. Hatano, K. Hirohata, and S. Izumi, “Modeling the effect of mechanical stress on bipolar degradation in 4H-SiC power devices”, Journal of Applied Physics 128, 250701 (2020).

4H-SiCにおけるBPD-TED変換現象解明のための反応経路解析

次世代のパワーデバイス用材料として近年着目されている4H-SiCの課題の1つとして、基底面転位(BPD)と呼ばれる転位が存在することが挙げられます。この転位はデバイス性能を著しく低下させることから、成膜時に大部分のBPDは貫通刃状転位(TED)と呼ばれる良性の転位に変換させています。しかしながら、BPD-TED変換現象は表面付近で起こる複雑な現象であることから、変換メカニズムは明らかになっていません。そこで本研究では、変換メカニズムを分子動力学から解明することを目的としています。

BPDは部分転位に別れて存在しており、表面付近で1本の完全転位へと収縮し、交差すべりによってTEDへ変換されると考えられています。そこでまず初めに、らせんBPDの収縮に表面が与える影響を解明するために、転位移動時のNEB法による反応経路解析を行いました。反応経路解析を行うことで、転位が移動するときの活性化エネルギーを見積もることができます。表面から転位対までの深さごとに、転位対が収縮する時、拡張する時の活性化エネルギーを算出し比較することで、表面から転位対までの距離がどのようなときに収縮が起こりやすい/起こりづらいのかが分かります。解析の結果、表面極近傍では部分転位の収縮が起こりやすいということが分かりました。次に、完全転位となったBPDからTEDへと交差すべりする過程について、反応経路解析を行ったところ、表面付近では交差すべりが即座に起こることが分かりました。このことから、BPD-TED変換には表面からの距離が大きく影響するということが示唆されます。

最後に、BPDがTEDへと変換される過程についてMDシミュレーションを行ったところ、これらの解析で明らかになったように、表面から変換されていく様子が確認できました。


反応経路解析によって得られたエネルギー曲線の一例

BPD-TED変換のMDシミュレーション

掲載論文

  • Yohei Tamura, Hiroki Sakakima, So Takamoto, Asuka Hatano, Satoshi Izumi, “Reaction pathway analysis for the conversion of perfect screw basal plane dislocation to threading edge dislocation in 4H-SiC”, Jpn. J. Appl. Phys. 58 081005 (2019)

心筋細胞の微細構造を考慮した電気生理・力学統合シミュレーション

生命維持をつかさどる心臓の機能は、心臓を構成する各心筋細胞の収縮により実現します。その心筋細胞は内部に規則正しい微細構造を持っています。心臓病などの病態細胞では生理的機能低下に加え、この構造が乱れることが知られていますが、病変との因果関係は推測の域を出ません。本研究では細胞内の3次元構造の影響を考慮し、電気生理・力学現象を統合したマルチフィジックス有限要素解析を実現しました。実験で得られる細胞の平均挙動とCa濃度分布の再現によりモデルの検証を行い[1]、T管の欠損による収縮動態の変化に関する検討[2]、ミトコンドリアとCa放出口の距離が代謝や収縮に及ぼす影響の検討[3]、ミトコンドリアの細胞内位置と虚血の関係に関する検討[4]等により細胞内の形態と心筋細胞の機能の関係について研究を行ってきました。分子生物学・ゲノミクスから得られた数多くの情報を有機的に結びつけ、医学・薬学への橋渡しとなるようなシミュレーションを目指しています。


心筋細胞内の構造の模式図(右)と有限要素モデル(左)

参考文献

  • [1] Hatano et al. A 3-D simulation model of cardiomyocyte integrating excitation-contraction coupling and metabolism. Biophysical Journal, 101(11):2601-2610, 2011
  • [2] Hatano et al. Critical role of cardiac t-tubule system for the maintenance of contractile function revealed by a 3D integrated model of cardiomyocytes. Journal of Biomechanics, 45(5):815-823, 2012
  • [3] Hatano et al. Mitochondrial Colocalization with Ca2+ Release Sites is Crucial to Cardiac Metabolism. Biophysical Journal, 104(2):496-504, 2013
  • [4] Hatano et al. Distinct Functional Roles of Cardiac Mitochondrial Subpopulations Revealed by a 3D Simulation Model. Biophysical Journal, 108(11):2732–2739, 2015

狭窄管内流れのFSI有限要素解析と造影剤動態解明

冠動脈の狭窄部の機能的重症度の有力な評価法として冠血流量予備量比(FFR, fractional flow reserve)が知られていますが、その測定にはカテーテルにより狭窄部の遠方まで圧測定用のガイドワイヤーを通過させる必要があり侵襲性が高いという問題があります。Transluminal contrast Attenuation Gradient(TAG)は冠動脈基部からの距離に対する造影剤の濃度勾配から機能評価を行う手法であり、侵襲性が低くかつ簡便な指標として期待されています。その指標の力学的根拠となる濃度勾配の形成メカニズム解明のためには、造影剤濃度の高い血液が噴流となり狭窄後の流体を交換する動態を考慮する必要があります。本研究では分岐狭窄柔軟ファントム拍動流実験とそれを模擬したALE流体構造連成解析を行い、更に狭窄率80%と95%において漸増する造影剤に見立てたパーティクルトレース解析を行いました。徐々に造影剤が充満する様子を可視化し、80%狭窄では軸対称な流れにより再現性のある密度分布を確認しました。一方で、95%狭窄では噴流の方向が変化することで密度分布が拍毎にばらつきが生じ、高狭窄率でのTAGの感度低下の原因となっている可能性を示しました。

動画は、流体構造連成解析結果とその流速場上での造影剤に見立てたパーティクルトレース解析結果です。流体は血液の粘性を仮定しており、入り口造影剤濃度を漸増させ、狭窄後部が徐々に造影剤で充満する様子を可視化しています。上から面積狭窄率80%、90%、95%の解析結果です。

参考文献

  • 波田野 明日可,住吉谷 淳,鈴木 一真,牛流 章弘,加納 明,加藤 光章,廣畑 賢治,泉 聡志.「分岐狭窄柔軟ファントム実験とALE流体構造連成解析による造影剤動態解明」日本機械学会論文集 Vol.84, No.863 (2018)
    WEB

鉄道分岐器のフロントロッド付属軸受の摩耗予測

列車が分岐器のトングレール後端部に存在する継目を通過する際、レール継目部において衝撃振動が発生します。この衝撃振動がトングレールを経由してフロントロッドに伝わると、フロントロッドに付属する軸受が摩耗します。フロントロッドはトングレールの位置情報を電気転てつ機に伝達するための部品の一つであり、その軸受に摩耗が累積することは分岐器の転換不能の原因となります。本研究では、摩耗のメカニズムを明確にするために、衝撃応答特性を再現した普通分岐器と特殊分岐器の有限要素モデルを作成し、トングレール後端部に衝撃が入力された際の軸受における面圧と滑り速度を算出する解析を行いました。さらに、軸受の摩耗試験とその試験を再現する有限要素法解析から算出した比摩耗量を用いることで、フロントロッド付属軸受の摩耗量予測を行いました。この摩耗予測手法を応用することで、様々な分岐器に対して効率的なメンテナンスを行うことが可能であると考えられます。


普通分岐器モデル概観

特殊分岐器(ダブルスリップ分岐器)モデル概観

参考文献

  • 近藤 祐樹, 島本 琢磨, 波田野明日可, 泉 聡志, 酒井 信介, 樋口 博俊, 鈴木 雅彦, 加藤 尚志, "車両通過時の衝撃振動による分岐器のフロントロッド摩耗予測のための有限要素モデリング", 日本機械学会論文集, Vol. 81, No. 832 (2015), DOI:10.1299/transjsme.15-00286.
  • 島本 琢磨, 田處 恵大, 波田野 明日可, 泉 聡志, 酒井 信介, 新野 善行, 鈴木 雅彦, 金田 敏之, "列車通過時振動による特殊分岐器フロントロッド部品の摩耗予測のための有限要素モデリング", 日本機械学会論文集, Vol.85, No.873, pp.18-00414 (2019) DOI: 10.1299/transjsme.18-00414

ボルト・ナット締結体の有限要素法解析~剛性・ゆるみへの問題適用

ボルト・ナット締結体のトラブルは21世紀を迎えた現代でも絶えることはありません。当研究室では、有限要素法解析(幾何学的非線形接触摩擦解析)により、ボルトのゆるみをシミュレーションすることに近年成功しました。現在では、締結体の剛性とゆるみのメカニズムについての理論的解明に至っています。当研究室ではこの技術を使って、企業との様々な共同研究を行ってきました。本技術を産業界にさらに移転するための相談・議論・共同研究の希望などを受け付けております。気軽にご相談ください。詳細は、ボルトの研究紹介ページをご覧ください。


ボルト・ナットのゆるみのシミュレーション(コンターは横方向変位)

ボルト・ナットの締め付けのシミュレーション(コンターは軸方向応力)

ボルト・ナットのゆるみのシミュレーション

エレベータ用ワイヤロープの有限要素モデリング

エレベータ用ワイヤロープ8×S(19)の軸方向剛性と径方向剛性を再現する有限要素モデリング手法の開発を行いました。また、径方向の剛性については、ストランド、心綱、ワイヤロープの径方向剛性の計測法を新たに提案しています。

初めに、ストランドの径方向圧縮実験により、ストランドの径方向剛性(みかけのヤング率 20 GPa)は、軸方向(みかけのヤング率 150 GPa)に比べて小さいことがわかりました。径方向荷重により、ストランド間の接触が強固になり、隙間が埋まり、充填率が上がると、剛性が高まることが実験及び解析両面からわかりました。このことから、素線間の接触の密着度の再現が有限要素モデリングにおいて重要であることがわかりました。開発した有限要素モデルはストランドの軸方向及び径方向の剛性を再現しています。

次に、心綱の径方向圧縮実験により、心綱の径方向剛性は、繊維の特性を反映して、ヒステリシスを有することがわかりました。心綱が圧縮された状態からの除荷直後の剛性のみを再現するため、有限要素モデルでは、心綱のヤング率を300 MPaに設定しています。

最後に、ワイヤロープの径方向圧縮実験により、ワイヤロープの径方向剛性は、心綱の特性を反映し、ヒステリシスを有し、みかけのヤング率も心綱とほぼ等しいことがわかりました。また、ロープにかかる張力に依存し、張力が大きいほど高くなることがわかりました。これは張力により素線間、心綱ーストランド間の接触状態が強固になるためと考えられます。有限要素モデルでは、ストランドが食い込んだ実物の心綱の形状を再現したワイヤロープのモデルを作成し、軸方向剛性及び径方向剛性が実験をおおよそ再現することがわかりました。


開発したワイヤロープの有限要素法モデル

掲載論文

  • 泉 聡志,中谷 起也,太田 仁衣奈,波田野 明日可,山際 謙太, “エレベータ用ワイヤロープの径方向剛性を再現する有限要素モデリング”,日本機械学会論文集、Vol. 87, No. 896 (2021) DOI: 10.1299/transjsme.20-00418

時間・空間スケールをつなぐマルチスケールシミュレーションの開発と材料強度問題への応用

有限要素法・転位動力学・分子動力学・電子状態計算を組み合わせたマルチスケールシミュレーションの開発を行っています。特に、時間スケールと空間スケールのギャップの問題を克服する手法開発に主眼を置いています。開発されたシミュレータは、半導体分野や電子デバイス分野の転位生成/進展現象・剥離現象などに応用されています。マクロスケール(連続体)とナノスケール(原子系)をつなぐためには、mからnm、secからnsecまでの9桁のギャップを克服しなけばなりません。空間スケールの克服のためには、有限要素法-分子動力学シミュレータを開発し、薄膜の剥離問題へと適用しています。Fig.1はナノインデンテーションによる薄膜の剥離試験モデルで、下部が有限要素法でモデル化されています。Fig.2は、計算結果であり、実験と同様の位置で剥離が起こっています[1]。時間スケールの克服のためには、Nudged Elastic Band法に基づいた反応経路探索の手法開発と応用を行っています。Fig.3は、シリコンのコーナーからの転位生成問題へ適用した例で臨界応力時(Athermal stress)の転位発生例です[2]。Fig.4は、転位生成の活性化エネルギの応力依存曲線であり、正解で初めて、Shuffle-set転位((111)面の広いほうの平面に位置する転位)とGlide-set転位((111)面の狭いほうの平面に位置する転位)の比較を可能にし、低温・高応力ではShuffle-set転位、高温・低応力ではGlide-set転位が生成する実験結果を理論的に支持する結果を得ました[3]。さらに、この結果を転位動力学と組み合わせることによって、その後の進展・増殖課程を扱うことが出来ます(Fig.5)[4]。


Fig.1 ナノインデンテーションによる薄膜の剥離試験のFEM-MDモデル

Fig.2 ナノインデンテーションによる薄膜の剥離シミュレーション結果

Fig.3 シリコンのコーナーからの転位生成の分子動力学計算

Fig.4 転位生成の活性化エネルギの応力依存曲線
(Glide-set転位とShuffle-set転位の違い)

Fig.5 半導体素子の転位動力学シミュレーション

参考文献

  • [1] S. Hara, T. Kumagai, S. Izumi, S. Sakai, “Multiscale analysis on the onset of nanoindentation-induced delamination: Effect of high-modulus Ru overlayer”, Acta Materialia 57 (2009) pp. 4209-4216.
  • [2] Satoshi. Izumi, Sidney. Yip, “Dislocation Nucleation from a Sharp Corner in Silicon”, J. Appl. Phys. 104 (2008) 033513.
  • [3] K. Shima, S. Izumi and S. Sakai,“Reaction Pathway Analysis for Dislocation Nucleation from a Sharp Corner in Silicon: Glide Set versus Shuffle Set”, J. Appl. Phys., 108 (2010), 063504.
  • [4] S. Izumi, T. Miyake, S. Sakai, H. Ohta, “Application of three-dimensional dislocation dynamics simulation to the STI semiconductor structure”, Materials Science Engineering A, 395,1-2 (2005) pp.62-69.

SiCの熱酸化

MOSFETなどの半導体デバイスの製造には、高品質な酸化膜の形成が不可欠です。ワイドギャップ半導体である炭化ケイ素(SiC)では、Si半導体と同様にSiO2酸化膜が作成できることから次世代パワー半導体の材料として注目されています。しかしながら、高品質なSiC/SiO2界面の製造は達成されておらず、特にSiCの面方位によって酸化の速度や品質が大きく異なるなどのSiCに特有の現象が実験的に報告されており、界面反応のメカニズムの原子論的な解明が待たれていました。一方、熱酸化による酸化膜成長というダイナミックな現象を扱うため、大規模な分子シミュレーションの適用が望まれていました。

本研究では、酸化プロセス再現のためのSi-O-C系の原子間ポテンシャルを新たに開発し、酸化膜成長のシミュレーションを行いました。ポテンシャル開発では、第一原理計算を使った小規模な酸化シミュレーションを教師データとし、合計1,000,000以上の物性値をフィッティングしました。SiC酸化シミュレーションでは数千原子・数ナノ秒オーダーでの酸化膜成長シミュレーションを行い、Si面の活性化エネルギーがC面の活性化エネルギーより大幅に大きいことを示しました。さらにSiの酸化数と活性化エネルギーの関係を調べることで、Si面ではSi1+を含む平坦な界面構造が作られ、これがSi面特有の高い活性化エネルギーの起源であることを提案しました。C面では対照的に、Si原子が引き上げられることで不規則な界面が形成されました。シミュレーションの結果から、C面では過剰なC原子がより多く生成されることも示唆されています。

参考文献

  • So Takamoto, Takahiro Yamasaki, Takahisa Ohno, Chioko Kaneta, Asuka Hatano, and Satoshi Izumi, "Elucidation of the atomic-scale mechanism of the anisotropic oxidation rate of 4H-SiC between the (0001) Si-face and (000-1) C-face by using a new Si-O-C interatomic potential", Journal of Applied Physics 123, 185303 (2018).

有人ロケットの緊急脱出システムにおける人体安全性評価

有人宇宙輸送システムを実現させるためには、人体の安全性評価技術の獲得が必要不可欠です。そのためには緊急離脱時やカプセル着水時における衝撃に対する人体の傷害リスク評価が求められています。

宇宙分野においてはこれまで簡易的な質点解析により傷害リスク評価を行ってきました。それをより詳細なマルチボディ解析や有限要素法によって実現する手法を確立しました。これにより、座席の影響を考慮することや、人体にかかる負荷や傷害確率を部位ごとに知ることが可能となりました。有限要素法を用いた脳の詳細解析による傷害基準の策定や、カプセル着水条件と各部位の傷害の傾向を明らかにしました。本研究では最終的に加速度や座席条件に対する傷害との関係を明らかにすることで、ロケット設計に資するような安全裕度マップの作成を目指します。


有人宇宙カプセルのALE着水解析

Impact test to validate dummy's behavior at JARI
(Japan Automobile Research Institute)

参考文献

  • 植田 章裕,今泉 俊介,中川恒大,藤本 圭一郎, 波田野 明日可, 泉 聡志, 酒井 信介, "有限要素法を用いた有人ロケット緊急離脱時における人体傷害評価及び脳傷害メカニズム解明", Transactions of the JSME (in Japanese), Vol. 84, No. 866 (2018) DOI: 10.1299/transjsme.18-00126

固体間摩擦解析のためのFEM-MD連成解析手法の開発

自動車の燃費向上にはピストン-シリンダー間の摩擦損失の低減が必須です。潤滑剤の粘性を下げると運転時は低摩擦となりますが、摺動速度が小さくなる始動・停止時やピストンの上・下死点で固体間摩擦が発生し、正味の摩擦損失は増加します。この理由から固体間摩擦の低減技術が期待されていますが、固体間摩擦には解明されていない点が多く、数値解析によるメカニズムの解明が求められています。

固体間摩擦はナノスケールからマクロスケールまでのラフネスが影響するマルチスケールの現象です。固体間摩擦解析に有限要素法(FEM)や分子動力学(MD)の適用が期待されていますが、FEMは凝着のような原子レベルの現象を扱えず、MDはマクロスケールのラフネスを扱えません。両者の利点を生かし、ごく一部の真実接触領域近傍をMDで、他をFEMでモデル化するFEM-MD連成解析手法が期待されていますが、既存手法はモデリングや境界条件の制約のためにそのまま適用できません。

そこで大規模な固体間摩擦解析のためのFEM-MD連成解析手法の開発を行いました。以下は本研究で提案した連成解析手法を2つ紹介します。

一つ目の手法はまず外力の作用による並進運動を再現するFEM-MD連成解析手法を提案しました。既存手法では、MD層(Region1)とFEM層(Region4)の間に、原子と節点が共存する遷移層(Region2、Region3)を設け、この領域内で変異の受け渡しを行っていました(Fig.1)。しかし既存手法だとRegion3の固定原子の影響でRegion2の原子の変形に限界があり、外力の作用に対して大変形の一種である並進運動を再現できません。そこで本手法ではRegion2の原子の並進運動がRegion3の固定原子に影響されないよう、Region2とRegion3の間に新たな遷移層を設けます(Fig.2)。ここで遷移層内の節点と原子が独立していると、両者の運動のわずかなずれから非物理的な振動が発生してしまいます。そこで遷移層内では、原子速度と節点速度の差に比例する減衰力を原子に与えることで、原子の運動と節点運動を同期させ、並進運動を実現させました。Fig.3はラフネスを有するAl間の摩擦解析のモデル概観です。下の動画1は、摩擦解析の結果です。動画の上部は半透明化、変位量でカラーリングしています。

摩擦解析では時間発展とともに接触領域が移動するため、接触領域近傍のみをMDでモデル化する場合、MD領域も移動する必要があります。そこで接触領域の移動と共にMD領域も移動させる連成解析手法を提案しました。Fig. 4はその手法を用いたAl間の摩擦解析のモデル概観です。下の動画2は摩擦解析の結果です。


Fig.1 従来手法

Fig.2 本手法

Fig.3 ラフネスを有するAl間の
固体間摩擦解析のモデル概観

Fig.4 Al間の固体間摩擦解析のモデル概観